「孫子の兵法」は、世界最古の兵法書と言われ、今から2,500年前の春秋戦国時代まで遡ると言われています。その世界最古の兵法書が、現代においても世界最高の兵法書として各界のリーダーに支持されるのは、それらの戦術が、時代を超えても今の時代でも通用する「普遍的勝利の原則」であることの他なりません。

ここでは、「孫子の兵法」を理解するにあたり、全体の構造と戦いの本質というべき、大きな3つの特徴を解説しています。

全体の構造と本質を理解した上で内容に入っていくと、より一層の理解度が深まります。あなたの今後の「孫子の兵法」における学びの一助になればと思います。

※参考文献:「孫子」金谷治著

「孫子の兵法」の本質は、3つの特色の理解から

「孫子の兵法」の本質をお伝えする前に、まずは全体の構成を解説します。「孫子の兵法」では、13篇に分かれており、大き分けると3つに分類されます。〝総説〟〝戦術原論〟〝各論〟です。

〝総説〟では、第一の計篇、第二の作戦篇、第三の謀攻篇がそれにあたり、戦争の前によく熟慮すべき事を述べたもので、全篇の序論というべき本質中の本質が描かれています。

〝戦術原論〟では、第四の形篇、第五の勢篇、第六の虚実篇がそれにあたり、〝総説〟に密接に関連したものからなり、いずれも戦いの一般的構造規定というべきものが述べられています。

〝各論〟では、先の〝総説〟〝戦術原論〟を受けて、実践にあたっての有益な細かい配慮の行き届いた戦術が述べれています。

「孫子の兵法」は、全体の構造を理解しながら読むと、さらに一つ一つの篇の繋がりが見えてきます。ぜひこれらを頭に入れながら、読み解いてみてくださいね。

 

「孫子の兵法」が支持される3つの大きな理由

「孫子の兵法」は、全篇を通じて、大きく3つの特色があります。これらは、2,500年という歴史において、この兵法書が多くの戦略家や起業家のバイブルとして支持されている理由といえます。

(1)好戦的なものではない

第一は、「好戦的なものではない」という事です。
兵法書と言われるのに、ん?となるかもしれませんが、これこそが、「孫子の兵法」の戦いにおける真髄となる根本的思考です。「兵とは、国の大事なり」という冒頭の節にあるように、軽々しく事を起こすのを戒め、国力の消耗を考えて、長期戦を堂々と否定しています。

(2)超現実主義

次に、「超現実主義」な立場にあります。(1)のこととは違って、兵法書として当然かもしれませんが、現実に対する微細な観察とそこから出発して踏み外すことのないダントツに徹底した現実主義的な立論は、特筆すべき内容となっています。裏を返せば、「人格に一切アプローチしない」とも言えます。行軍・地形・九地などの篇では、戦場の様相を区別してそれぞれの処置を説き、精微な現実観察から生まれた敵情観察の法からは、その実体験の深さを物語っています。

開戦前の慎重な熟慮のもとに十分の勝算を立ててはじめて戦う必要性を述べ、敵情を知るために特に用間篇で間謀(スパイ)の重要性を説いています。さらに身方の実情をも熟知することが必要だというのは、現実の正しい把握から出発することこそが、戦いの基本であることを明らかにしてくれます。つまり、理想に燃えて現実を忘れ、進むを知って退く事を知らないのは、「孫子の兵法」に於いては、ありえない考え方であり、戦いを扱った書物にもかかわらず、熱くなったり、ムキになったりするところが、一切ないのです。その正当性は、歴史の荒波をくぐり抜け、今もなお読み継がれていることことからも明らかです。これだけ長きに渡る歴史を超えた真理が記されていると、古今東西の誰もが認めるわけですね。

(3)主導を把握する

第三の特色は、戦いに於いて、「主導性を把握する」ことの重要さが繰り返して強調されていることです。例えば、虚実の理(充実した身方の態勢で敵の虚を討つべきこと)や奇正の法(正規の法によりつつ状況に応じた奇法を使うべきこと)なども、戦いに於いていかに「主導性を把握すべきか」に於いて描かれています。

「孫子の兵法」の特色としては、他にも将軍の職分を特別に重視するなど、細かくは他にもありますが、それらも先に述べたダントツとも言える徹底的な現実主義的な立場に貫かれ、また戦いの主導性を重視する立場から発しているとも言えます。また、この考え方は、「老子」との関係の深さから、儒家の思想との交流がみられるのも一つの特徴です。

 

まとめ

「孫子の兵法」13篇全体の構造

  1. 〝総説〟(全篇の序論というべき本質中の本質
    ・・・第一の計篇、第二の作戦篇、第三の謀攻篇
  2. 〝戦術原論〟(戦いの一般的構造規定
    ・・・第四の形篇、第五の勢篇、第六の虚実篇
  3. 〝各論〟(有益な細かい配慮の行き届いた戦術
    ・・・第七の軍争篇、第八の九変篇、第九の行軍篇、第十の地形篇、十一の九地篇、十二の火攻篇、十三の用間篇

「孫子の兵法」3つの大きな特徴

  1. 好戦的なものではない
  2. 超現実主義
  3. 主導を把握する