【孫子のダントツ勝利学/第二篇「作戦篇」vol.1】

今回の内容は、百害あって一利もない不効率な戦い方についてのヒントです。

  • 賢く勝ちたい人
  • 無駄が嫌いな人
  • 完全主義思考の人

こんな人は、ぜひこの記事を読んで、自分の行動や選択を見直してみてくださいね。

※【孫子のダントツ勝利学】には、2つの楽しみ方があります。

  • 「孫子」の原文と和訳に興味がある方
    →分かりやすく忠実な超訳を目指しています。随時リライト重ねていきます。
  • ライバルに圧倒的に差をつけるナンバーワン(個人)のノウハウを学びたい方
    →「孫子」を、現代の個人戦争に置き換え、個人のナンバーワン勝利戦略という観点で現代超訳を行っています。

兵には拙速を聞くも、未だ巧久を睹ざるなり。

 【原文】
『孫子曰わく、凡そ用兵の法は、馳車千駟(ちしゃせんし)、革車千乗(かくしゃせんじょう)、帯甲(たいこう)十万、千里にして糧を饋る(おくる)ときは、則ち内外の費、賓客(ひんかく)の用、膠漆(こうしつ)の材、車甲の奉、日に千金を費やして、然る(しかる)後に十万の師挙(あ)がる。其の戦いを用(おこ)なうや、久しければ則ち兵を鈍(つか)らせ鋭(えい)を挫(くじ)く。城を攻むれば則ち力屈(つ)き、久しく師を暴(さら)さば、則ち国用足(た)らず。夫れ(それ)兵を鈍(つか)らせ鋭を挫(くじ)き、力を屈(つ)くし貨を殫(つ)くすときは、則ち諸侯其の弊(へい)に乗じて起こる。 智者ありと雖(いえど)も、其の後(あと)を善くすること能(あた)わず。

故に兵には拙速(せっそく)なるを聞くも、未だ巧久(こうきゅう)なるを睹(み)ざるなり。夫れ兵久しくして国の利する者は、未だこれ有らざるなり。故に尽(ことごと)く用兵の害を知らざる者は、則ち尽ことごと)く用兵の利をも知ること能(あた)わざるなり。』

【歴史の豆知識】

  • 馳車千駟/戦闘用の軽車千台。駟は一台ごとの四頭立ての馬のこと。
  • 革車/輜車の重車

(出典/孫子 訳注:金谷 治)

【超訳】
「孫子はいう。概ね、戦争の原則は、戦車千台、輜重車千台、武装した兵士が十万人、千里の彼方へ出兵し食糧を輸送する場合は、内外の経費、賓客への進物・もてなしの費用、膠(にかわ)・漆(うるし)などの武具の材料、戦車・甲冑の準備などを合わせて、一日に千金という大金を費やして、初めて十万人という軍隊を派遣することができるもののである。つまり、そうした大軍をもって戦いにのぞむということは、長びけば軍を疲弊させ鋭気をくじくことになる。その状態で、城を攻めるものなら、戦力は屈きてなくなるものだ。だからといって、長い間、軍隊を駐留させたところ、それも国の経済を圧迫させてしまう。そもそも、軍も疲弊し鋭気もくじかれ、体力も尽き、財貨も無くなったということであれば、周囲の諸侯たちはその困窮に漬け込んで襲ってくるものだ。たとえ、軍隊に智謀に長けた人がいても、それを防いでなお、その後いい方向にもっていることはできない。

だから、戦争において多少拙い点があったとしても速やかに事を進め勝利した事例はあるが、完璧を期して長く事を進め勝利したという事例は、未だ聞いたこともないのだ。そもそも戦争が長引いて、国家に利益があったということは、未だかつてないのだ。だから、戦争の運用において生じる様々な損害について深く知らない者に、戦争の運用において生じる利益などについて深く知るよしはないのである。」

 

百害あって一利なしの戦い方

【ダントツ勝利学的解説】
戦いにおいて、理想の勝利とは、血を流さず勝つことに他なりません。例え、実戦を交えるとしても、できる限り、犠牲を抑えて、勝つことは、何よりも重要です。

孫子によれば、戦いの本質は、「負けない」ことが原点だからですね。だからこそ、孫子は、勝ち方についても、徹底的に説かれているのです。

理想の勝ち方とは、犠牲を最小限に抑えて勝つことでした。

では絶対にやってはいけない戦いとは?

それは、犠牲をたくさん出すことです。絶対に避けなければなりませんよね。

これを、孫子は、戦いの鉄則として〝兵は拙速を聞くも、未だ恒久を賭ざるなり〟と説きました。「過去の戦いにおいて、良くも悪くもすばやく切り上げた事例はあるが、長引かせ完璧な勝利をおさめたという事例は一度もない」と言っているのです。一度もです。

つまり、完璧を期するあまり、長引く戦いは、戦いとしてナンセンス。無駄であり害でしかないということです。これこそが、百害あって一利なしの戦いなんですね。

過去のベトナム戦争は、いい例です。米国は、早い勝利を収められず、戦線は泥沼化。撤退を余儀なくされ、その後のアメリカ経済の破綻をもたらすきっかけにもなりましたね。

このように、速戦即決しなければ、米国のような超大国であっても、イラクやベトナムといった小国を相手にしても、苦労し大きな代償を伴うものなんです。

この戦い方は、私たちの身の回りにも置き換えることができますね。

たとえば、会社のプロジェクト。

早くプロジェクトを完了できなければ、時間に比例し人件費の負担が増えるのはもちろん、社員たちの士気にも影響してきます。士気は次第に下がり、効率も下がり、終いには長く時間をかけたあげく打ち切りなんてこと、よく聞く話です。

ダラダラと続く会議はどうでしょう?

ダラダラと目的のない会議は、モチベーションを下げるばかりか、出席者全員の仕事時間を奪うことになり、会社にとっての生産性はまさに損失です。疲弊した中で生まれたアイデアや結論の多くが、優秀でないものであることは、わかりますよね。

勉強やトレーニングにおいても然り。

完璧な成果を求めて、トレーニングを長く激しく続ける。結果、時間に比例し、体への負担も大きくなり、集中力は欠け、オーバートレーニング、最悪怪我なんてことに。

 

つまるところ、百害あって一利なしの戦い方とは、「長期戦」を指すわけですね。

では、犠牲を減らし、すばやく戦いを終えて、勝つための秘訣はなんでしょうか?

孫子は、それを「勢い」と「主導権」を取ることと言っています。「勢」を得るとは、〝スピード〟を得るということです。スピードが早ければ早いほど、「勢い」は増し、遅ければ遅いほど、「勢い」はなくなります。「勢い」が増せば、「主導権」をこちらで取ることができます。この2点を取れば、勝利は目前です。

先でも「兵は拙速を聞くも、未だ恒久を賭ざるなり」について解説しましたが、この下りから生まれたことばが「巧遅拙速」という四文字熟語です。「巧速」にこしたことはありませんが、孫子は、『「巧遅」より「拙速」にせよ』と言っているワケです。だから、この下りに続けて、「其兵久しくして国の利なるものは、未だ有らざるなり」と述べられているわけです。

「苦節○年」では勝ち抜けない。

日本では、「拙速」は、あまりいい意味で使われていません。平たく言えば、「早いだけが取り柄」で雑というイメージがあるような気がします。日本には、むしろ「ウサギと亀」の話にように、時間がかかっても丁寧に仕上げることを美徳とする風潮があります。「苦節○年」という言い方が称賛され、好まれるのも、そういう背景があるからです。

しかし、勝利に徹する孫子の考え方は、とても合理的です。持久戦になれば、まず兵士が疲弊します。そして、食糧やその他の維持管理費に莫大なコストがかかります。この事実は、国の防衛と経済を揺るがし、競合に自らつけいる隙を与えてしまいます。だから形勢がどうであれ、短期決戦が絶対条件なんです。そのために第一に「計」について戦う前に入念に行うこと、次に実戦においては、「勢」や「詭道」を重視するのは、すべてこの絶対条件に通じることなんですね。

これは、自軍が劣勢に立たされていいるとすれば、さらに重みを増します。概して、「なんとか挽回してやろう」とか「せめて一矢報いるまで頑張ろう」などと依怙地になり、結果的に泥沼にはまり込んでしまうことが、大いにあるからです。冷静に早々と見切りをつけて撤退すれば、浅い傷で済むことの方が賢い選択です。

つまり、賢い戦いにおける勝利とは、「拙速」なる戦いの先にあるものなのです。

私たちの多くのビジネスの世界でも当てはまります。

  1. 完璧を期するが故に、納期を守れない。
  2. 完璧といえないまでも、納期を守る。

どちらが、ビジネスとして成立するのでしょうか?

当然、(2)の「約束を守る」「納期通りに納める」と言ったことは、ビジネスの基本中の基本です。

そして、納期を守る人には、仕事の依頼が集中します。頼む側にとってみれば、期限を守ってもらうことが絶対条件で、計算も立つわけです。たとえ、丁寧な仕事ぶりでも、遅い人には頼みにくいですよね。

そうして、仕事を頼まれた人は、経験値がどんどん上がっていきます。数をこなすうちに質も上がるのです。「拙速」の繰り返しが経験値を高めるわけですね。これこそが、「拙速」が「巧速」になり得るの道ではないでしょうか。

 

まとめ

百害あって一利なしの戦い方とは?

「完全勝利を求めた長期戦」

理想の賢い戦い方とは?

「犠牲を最大限に減らし、短期で勝利を掴む戦い方」

早期決戦を制するために

  1. 「計」について戦う前に入念に行う
  2. 実戦では、「詭道」を用いて、「勢」を得てスピード重視。