【孫子のダントツ勝利学/第二篇「作戦篇」vol.3】

今回の内容は、感情に任せるか、戦略に任せるか、したたかな戦い方についてのヒントです。

  • したたかな生き方を選びたい人
  • 感情重視な人
  • 責任あるリーダー職の人

こんな人は、ぜひこの記事を読んで、自分の行動や選択を見直してみてくださいね。

※【孫子のダントツ勝利学】には、2つの楽しみ方があります。

.「孫子」の原文と和訳に興味がある方
→分かりやすく忠実な超訳を目指しています。随時リライト重ねていきます。

.ライバルに圧倒的に差をつけるナンバーワン(個人)のノウハウを学びたい方
→「孫子」を、現代の個人戦争に置き換え、個人のナンバーワン勝利戦略という観点で現代超訳を行っています。

敵を殺す者は怒なり、敵の貨を取る者は利なり。

【原文】
『故に敵を殺す者は怒(ど)なり、敵の貨を取る者は利なり。故に車戦に車十乗已上(いじょう)を得れば、其の先ず得たる者を賞し、而して(しかして)其の旌旗(せいき)を更め(あらため)、車は雑えて(まじえて)これに乗らしめ、卒(そつ)は善くしてこれを養いしめる。是れ(これ)を敵に勝ちて強を益す(ます)と謂う。 

故に兵は勝つことを貴ぶも、久しきを貴ばず。故に兵を知るの将は、民の司命(しめい)、国家安危(こっかあんき)の主なり。』

(出典/孫子 訳注:金谷 治)

【古典の豆知識】
  • 怒=軍威。激をいれて怒らせて(勢いに乗らせて)敵を倒す。
  • 旌旗=せいき。はた。軍旗。
  • 生民=民のこと
  • 司命=生殺の権限を握る者。

【超訳】

兵士が敵兵を殺すという行為は、怒りの上に敵意を目的とするものであるが、兵士が敵の物資を奪い取るのは、実際の自軍の利益につながる目的によるものだ。だからこそ、戦車を使った戦いで、敵軍の戦車を十台以上捕獲した際は、最初に捕獲に成功した者に賞を与えるのだ。そして敵軍より奪った戦車の旗を自国の旗に取り替え、奪った戦車を自国の軍隊に加え、兵を乗せる。さらに降参した兵士も、優遇し迎え、自国の兵として養っていく。母国を疲弊させずに、さらに自国の軍隊を増強させること、これが、戦争で敵国に勝ちながら、国力を増強させる最良の方法なのである。

以上のことから、戦争は、勝利を第一とするが、長期戦になることを良しとしない。速やかな勝利すなわち速戦速勝こそを最高とみなすのだ。戦争の利害を知った上で適切な判断できる将軍というは、民衆の生死の運命を握る責任ある立場であり、国家の存亡を分けるような重大な判断のできるリーダーなのである。

 

感情に任せるか、戦略に任せるか?

 孫子は「戦い」の理想として、超戦略的判断の立場に立った最高すなわちダントツの勝ち方にこだわることを何度も説いています。

感情に任せた戦い方

勝つために身を奮い立たせ、怒りというエネルギーをかりて、勢いに乗じ、敵兵を打ち倒すというのも、一つの戦い方です。

感情の力の強さは、エネルギーの力の強さに比例しますので、大きくなればなるほど気合の一発ならぬ、その渾身の一撃は、大きな力となって目の前の障害を打ち負かすことができるのです。ただし、その代償として大きなエネルギーも消費します。

満身創痍の勝利とはよく言いますが、勝利したとはいえ、疲れ切ったところを次なる敵に襲われては、一溜まりもありません。最終的に負ければ、全ては終わりなんです。

最高の戦い方とは、負けない戦い方なんです。それが、勝ち続ける戦い方でもあるわけなんです。
つまり、感情に任せた戦い方は、大きな代償を残すので、賢い戦い方とはいえませんよね。

 

戦略に任せた戦い方

チンギス・ハーンをご存知ですか?
1200年初頭のモンゴル帝国初代皇帝です。戦争に長け、彼の軍は、掠奪に長けた軍だった言います。

チンギス・ハーンは「男として最大の快楽は何か」と問いに、「男たる者の最大の快楽は敵を撃滅し、これをまっしぐらに駆逐し、その所有する財物を奪い、その親しい人々が嘆き悲しむのを眺め、その馬に跨り、その敵の妻と娘を犯すことにある」と答えた。

(モンゴル帝国史)

チンギス・ハーンは、このような観点から、兵士個人の快楽を国益に結びつけるという、非道徳的ではありますが、最も効率的な方法を戦略として取っていたわけですね。

一代で、当時の世界人口の半数以上を統治するに到る人類史上最大規模の世界帝国であるモンゴル帝国の基盤を築き上げたのですから、その戦い方が「間違っている」とは、短絡的に言えるものではありません。

彼もまた、孫子の愛読家の一人でした。チンギス・ハーン率いるモンゴル軍は、敵の領地と財産と女たちを奪い尽くしただけではなく、技術者をも自分たちのものとして、テクノロジーを吸収していきました。技術者は厚遇し、新兵器が開発されれば、次の戦争で使用していきます。文字通り、戦うたびに強さを増していったのですね。

さらにモンゴル軍は1219年、中央アジアのホラズム地域(いまのウズベク)を攻略する際、捕まえた住民たちを動員して城を攻撃させました。彼らの同族たちがモンゴル軍の先頭に立って堀を埋め、攻城兵器を運ぶ光景を目にした、城の防御に当たっていたホラズム市民たちは、同族に矢を放つには忍びなく、戦意を喪失させたと言います。

これは、捕まえた敵兵を活用し、味方の犠牲を出さずに敵情を陥落させた、まさに孫子のお手本通りの戦法と言えます。

戦略的に「価値のある財物・戦車・敵兵」を自国のものに再利用しながら進める戦い方は、敵国をできる限り傷つけず勝ち取ることができるので、その後の国の再開発も容易となります。

感情に任せて敵兵を怒り殺すと、大きな疲労感が残る上、一からの新たな国起こしもやらなければなりません。さらに開発にエネルギーが必要となりますよね。

 

勝利に導くリーダーの資質

孫子が、『長期戦』を何よりも嫌うのは、国家・民衆・財政を疲弊させることは、国が滅びる原因に成り得ることを知っているからであり、『感情に囚われた長期戦による満身創痍の勝利』よりも『合理的な勝利』を第一とするのが、戦略的に価値が高いのはいうまでもありません。

「兵を知るの将は、民の司命(しめい)、国家安危(こっかあんき)の主なり。」の下りにあるように、誰のために戦うのか、目的を失い、一時の感情に流されることは、リーダーとして無責任なわけですね。責任あるリーダーとは、目的のために、感情に流されることなく、合理的に判断できるリーダーなんです。

「なんのために戦うのか?」

今一度、戦いの目的をはっきりとさせ、その上で、戦略的に判断してはいかがでしょうか?

 

まとめ

感情的判断

  • 大きなエネルギーを使い、打ち負かすことができる
  • 大きなエネルギーを消費する

戦略的判断

  • 小さなエネルギーで、勝利を得ることができる
  • 小さなエネルギーを消費する

真のリーダーの資質

目的のために、感情に依存せず、戦略的に判断していく資質